きれいな声
きれいな声に魅かれて最後まで観てしまったNHKの『大往生』。
TVをつけると父と娘さんの二人暮らしの居間が映っていた。父親は病気で臥せっている。娘さんが訪問の医師に応えている。この声が美しく澄んでいる。娘さんの顔が大きく映し出される。目が腫れぼったい。どうしたのかと気になってしばらく見ていた。娘さんと言ってももう若くはない。しばらく観ていると娘さんは全盲であるという語りがあった。
父は自宅で療養を希望し娘さんは目が全く見えないが父の希望に副いたいというので訪問の医師を交えてこれからの生活の方針を話している。この声の美しさは娘さんの心根を反映しているだろうか。
父親にわがまま言われて泣いてしまったと医師に話している。泣いたりして父に申し訳ないという娘さんに医師はきれいごとでなく泣いたり笑ったり自然体でいるのが良いと励ます。
父親は娘さん、姉妹、甥や姪に看取られての大往生だったと思う。
103歳の方は自信に満ちた人生を歩んで来た方のようだ。認知機能が衰えても三つ子の魂百までの喩え通り魂は衰えない。これは本人には辛いだろうと思う。日々の暮らしの中で様々な能力が衰えて行くのを自覚している。それを認めるのは悲しい。この方は我が家で最後は迎えられなかった。
『大往生』の父娘は父は末期で介護する娘さんは目が見えない。全盲のハンディがある娘さんは大変なご苦労だったろう。手伝ってくれる伯母さんはいるが。
娘さんにお父さんは満足して逝ったよと声を掛けてあげたい。お父さんは全盲の娘さん一人を残していくのは少し心配かもしれない。心を込めて父親を見送れたんだものその心がけで生活していれば応援してくれる人がいる大丈夫と励ましと応援の気持ちでテレビを観ていた。
娘さん声をもっと聴いてみたくて最後まで観た。
病気の父親と訪問医師の百目柿をめぐる会話が楽しかった。
医師が庭にある柿を勧められても木の上の方なのでとれないというと、
「気分がいい時取ってやるよ」と父親。寝たきりで食事も寝たまする病人である。
父親が言うには庭の柿は熟すと甘い匂いがするそうだ。そうなってからもいで食べるとことさらにおいしいということである。
父親と全盲の娘さんの話は観終わって安らぎと幸福を感じた。
大往生というのは最後の瞬間ではない。それまでの生き方の集大成だと思った。
父親を看取る娘さんの姿は優しくかった。声は本当に美しい。