果物を買う

一昨日果物店の前を通りかかるとリンゴ三つで二百八十円だった。随分安いと通り過ぎた。ちらっと見ただけだったが張りのある良い品のようなので戻って確かめた。近くのスーパーや駅のスーパーにあるものよりもよさそうだった。ので買ってみた。今はリンゴの時期は過ぎているがリンゴは実がしまっていて美味しかった。

 

バス通りのその店で買うのは初めてだった。果実・盛カゴ専門店として開店したのは四十年程前だった。古くからある青果店の支店である。本店は長男が継ぎ次男が結婚を機に親から支店を出してもらったようだ。開店当時は次男とその妻がやっていて贈答用の高級果実を扱っていた。当時は近隣に高級果実店はなかったから葬祭用に重宝された。しかし近くにスーパーが出来、バブルがはじけると店はひっそりとしてきた。跡継いだ娘さんは長女で歴史と伝統のある県下随一の県立女子高を卒業している。大学を出てからは教員をしていた。教員時代に同職の人と結婚した。やがて店を継ぎ夫婦で店を営んでいる。子供はいない。

 

リンゴの美味しさと安さに味をしめ今日はわざわざリンゴを買いに行った。店の外にお徳用リンゴやバナナが少しばかり置いてある。なんと今日はりんご三個二百五十円だ。よく見ると後ろに三個二百八十円の袋がある。すわ一昨日の売れ残りか。三個二百五十円を手に取る。バナナ百六十円也。グリープフルーツ三つ百八十円也、一つ六十円の計算だ。信じられない値段だ。見た目は悪くない。

 

近頃は美味しいグレープフルーツに出会わない。グレープフルーツ離れが進んでいるというが品が悪いから人気がないのだ。昔のグレープフルーツは果肉が柔らかくてみずみずしかった。安いアフリカ産を見かけるようになってから全体として質が低下した。カルフォルニア産も以前の果肉の柔らかいものではなくガリガリする。このグレープフルーツは実が柔らかそうだ。

 

店内の2個入りトマト百三十円も2パック購入。全部で八百五十円也。

 

レジを打って呉れたのは跡を継いだ娘さん、といっても五十歳は過ぎているだろう。店は奥の方まで空間が広がっている。レジの傍らには漬物などが置いてある。

 

 

「グレープフルーツ離れがすすんでいるそうですね。苦いから嫌いという人が多いそうです。もったいないですね」

レシートを渡しながら話しかけてくる。

一昨日買った時も「今日はまた寒くなりましたね」レシートを渡しながら言葉を添えた。

「これ表面に傷がありますが」

と断りを言うので

「びっくりするほどお安いですね」

と言ってしまったら沈黙で応えた。おどろくほど安価なのでそういったのだが。失言したか。あまりにも低価格なので傷があっても少しいたんでいても文句はない。それよりも近隣のスーパーの一個売りの少し高めのグレープフルーツよりも物は良さそうだ。値段の差は新しさの違いか。新しいのがいいとも言えない。今日明日が食べごろメロンは激安価格だ。ひな壇の一番上にある高価なメロンを買っても熟すまで十日位は待たなければならない。

店を出るときご主人は聞こえるか聞こえないかの声で

「ありがとうございます」

と言った。

 

テレビ朝日の633お天気情報を観ながら夕食の前にまずグレープフルーツを一個食べた。ヘタのところが茶色くグニュグニュなっていたが中身は何でもない。グレープフルーツは大好物だったが果肉の固いのにばかり遭遇した結果好物一位から陥落している。抜群に美味しいとは言えないがスーパーの一個二百五十円と比べても最初の一個は遜色はない。残り二個はまだ食べていない。

 

夕食から五時間以上経つがまだグレープフルーツの苦みと香りが口腔に残っている。グレープフルーツのこの苦みが好きなのだ。