ゲンポンがないとお渡しできません。

いつもの調剤薬局にいつものように薬を取りに行った。いつも薬は既に用意してあっておくすり手帳を提示して代金を払うだけだ。母が一人で通院していた時は自宅まで届けてくれていた。医院から薬局にファックスで連絡が行っている。

 

入って腰かけて待つ。見慣れない薬局員が近づいて来て

「ゲンポンをお持ちですか」

と言う。何のことか。いつも薬は既に用意してあっておくすり手帳を提示して代金を払うだけだった。

「病院の方からファックスが行ってるはずですが」

とか返事したか。ゲンポンはないと答えたか。よく覚えていない。ゲンポンて何よ。かつてない展開である。

「ゲンポンがないと薬はお渡しできません」

といきなりの拒否である。「お渡しできません」と強い言葉をピシャリと言い放つ。

 

それなら要りません。無理に渡してくれとは頼んではいません。じゃあ帰りますといいたいところだが私の薬ではない。母の代理で取りに来ているのだ。仕方がない貰って帰ろう。

 

「病院の方からファックスが行ってるはずですが」

と言ったような返事をする。

女薬局員立ち去る。

何事、いきなりのお渡しできませんに戸惑いつつ。処方箋のことかしらと思いつつ、いつもはファックスで届いているのに今日はどうしたことか。一応病院でもらった紙を入れておいたファイルの中を見る。処方箋と書かれた紙がありました。

「処方箋ですか」

とか言いつつ渡す。この人が経営者かもと常日頃思ってるオッサンに。オッサン愛想よく受け取る。

「こんなこと聞かれたの初めてだわ」

と処方箋の提出を求められたことを戸惑いを装って口にした。

本当は戸惑いではなく「ゲンポンがないと薬はお渡しできません」に対する不快感であった。いきなり拒否るな。「病院でもらいませんでしたか」とか「これくらいの大きさの紙あませんか」とか。せめて「薬はお渡しするにはゲンポンがいるんです」とか言い方があるだろう。その薬局員はバッチリメイクで気が利いた服装であった。

 

オッサン曰く、病院側が処方箋をファックスするときとそうでない時がある、との事でした。