お花を届ける
美容院で髪を洗ってもらっている時に先生が
「言いにくい話があるんですけど」
と切り出す。何かしら
「実は父が亡くなったんです」
ええ、手術が上手くいって驚くほど元気になったと言っていたのに。
「手術を受けた病院にいる間は調子が良かったんですが、T野病院に移った途端に悪くなって」
「前の病院ではほんとに元気になったんです」
と不満げである。美容院の先生はT野病院の院長に不信感を持っていた。市外でもあったので入院させたくはなかったが長期入院の老父を受け入れてくれる施設は他になく選択の余地がなかったのだと入院させたときに語っていた。T野病院というのは患者の健康よりも利益優先との評判で特に先代の院長は悪しき評判が立っていた。息子の代になってからは幾分医者としての良心と誇りを取り戻したらしい、という噂もあるがいやそんなことはない相変わらずだと強く主張する人もいる。
午後に出直してお花を供えにうかがう。
「持って優しくしてあげればよかったと思うと涙が出る」
と言う。先生のお父さんと私の母は同じ年で二人して親の老醜を言い合えたのだ。その先生が
「お母さんに優しくしてあげてね。後で悔やむから」
「やることは同じだから優しくやって」
とのたもうた。
「心がけます」
と返事をした。
続く