ゴリラのチャーム

ロングで泳ぐ人が私のロッカー近くのベンチに座った。たまに見かけるが言葉を交わす間柄ではない。軽く頭を下げてロッカーからバッグを取り出し肩に掛けると

「ゴリラがついているんですね」

と言う。笑顔で軽く頷いた。一瞬何のことかわからなかったが聞き返すのも間が抜けているような気がした。

「私、ゴリラが大好きなんです」

とバスタオル姿でその人は言葉を添えた。バッグについているチャームのことであった。

 

肩掛けバッグとディバッグはお揃いでともに黒いゴリラのバッグチャームがついている。赤と緑の柄と色合いが気に入って買ったものだ。確か「ジャングル」と名前がついていた。赤と緑の柄は抽象化したジャングルのように見える。大きさもファスナー付きのポケットがたくさんあって使い勝手もよさそうだった。それぞれをポケットに分散して入れておけばバッグの中を覗き込んで財布を探さなくてもよい。財布は財布用のポケット、iPhoneiPhone用のポケットにしまえばよい。

ただなんでゴリラなんかついているのだろうと思った。

 

持ち物にチャームやストラップなどを付けるのは私の趣味じゃない。家の鍵は白い平ゴムいわゆるパンツのゴムを長くしてバッグの手にぶら下げている。ゴムを伸ばしてカギを開けると飾りより実用重視である。

 

バッグのチャームなどにどんな意味がある。ぶら下がっていては邪魔なだけだ。年甲斐もなく子供じみていると思われるのではとの不安もあった。取り外して使おうかと考えた。しかし取り外すと何かが欠けるような気もした。このバッグは黒いゴリラがついていて体裁が整うのだろう、ジャングルにゴリラがいてもいいではないかと思い直して付けたまま使っていると

 

「かわいいですね」

とか

「ゴリラがいる」

とか言われてこのゴリラかわいいかもと思うようになっている。

 

バスタオルの彼女は言葉を続けて

「私、動物が大好きで、象の絵のタオルとかもっています」

さらに

「動物を見にケニアに行きたいけど今はいけなくて」

コロナで行動を制約されているからかしらそれとも時間などの都合で今はいけないのだろうかと疑問があったが

「私もアフリカに興味があります」

と返答した。私の興味は動物ではない。アフリカのファッションの色彩だ。TVで見る彼らの洋服の実際の色合いを見てみたい。

 

ゴリラがきっかけで顔を合わせれば会釈をする人と思いがけない会話をした。