挨拶

デイサービスのスタッフの一人は母を迎えに来るとき挨拶をしないで入って来ることがある。挨拶をしない人は私が玄関先に出ていても行ってきますと言わない時もある。目は伏せがちである。細くて暗い感じだ。 

 

今朝は

「すみません」

と声がする。今日は暗めのスタッフがお迎え担当の様だ。

お迎えが遅くなったので母は待ちきれずに門のあたりまで出て行っていたのだろうか母の姿はない。なんの挨拶もなく車に乗せたのだろうか。

素手で持った薄桃色のリハビリパンツを差し出し。

「脱いでしまったようで落ちていました」

という。

「すみません」はごめん下さいの意味ではなく「すみません。パンツが落ちていました」のお知らせの為の呼び止めのように響いた。

「お待ちください」

といいポリ袋を取りに行く。

ポリ袋に両手を入れてパンツを包み込むように持ち袋ごと丸めて捨てた。

「すみませんでした。お願いします」

「はい」

と言って立ち去ったがその間挨拶はない。

「では行って来ます」

とも言わないいつものことである。

他人のスタッフが素手でつかんだパンツをポリ袋で受け取ったのは失礼かとも思った。嫌だったらそのスタッフはテッシュか何かで包んでもいいし、私は素手では触りたくなかったのだ。

 

帰りはキッチンにいると母の声がする。帰ってきたのだ。他のスタッフなら大きめの声で

「ただいま戻りました」

と声掛けをしてドアを開ける。

彼女は黙ってドアを開けたのだ。

 

「後は娘さんにやって貰って下さい」

と言っているのが聞こえた。玄関に挨拶に行く。

「お世話様でした」

と声をかけるが娘さんに何をやってもらうのかは言わない。

荷物は他のスタッフの時と同じに置いてある。

「失礼します」

とそのスタッフは帰って行った。

 

ろくに挨拶をしないのは何か不愉快なことでもあるのだろうか。ポリ袋がいけなかったのか。それともマメに挨拶をしない環境に育っただけで不愉快で挨拶したくないとかではないのか。無言で他所の家のドアを開けられるタイプなのだ。