泣いている女の子

ロッカールームがら出て来て靴を履き、ラウンジに入るので靴を脱ぎなどしていると母娘がいた。三歳くらいの女の子が泣いている。涙がポロポロ頬を伝う。呻くように泣いている。口を大きく開け泣いている。

赤ん坊を抱いた母親らしき人が

「そんなに泣いていては練習出来ないでしょ。帰りましょう」

女の子は啜り上げながら小さく頭を振る。

「じゃあスタジオに入って練習して」

と促す。小さく頭を振る。

「練習しないなら帰りましょう」

母親は更に帰りを促す。女の子は身体全体で拒否る。

「練習も嫌帰るのも嫌、ではどうしたいの」

女の子は更に泣く。

 

傍らを通り過ぎラウンジに行く。バナナ一本、黄粉入り牛乳200ccを摂る。運動のした後のタンパク質補充だ。ラウンジの隅のテーブルで壁の方を向いてバナナを食べていたら男の子が二人覗きに来た。食べているところを覗き込まれた。ニコニコしている。バナナが気になるのだ。

 

前にもここでバナナを食べていたら別の男の子に羨ましそうに見られた。

「バナナ、好き」

と聞いたら大きくうなずいた。

パクッと残りを口に入れた。

「食べてしまったの。ごめんね」

男の子の表情が曇った。

人にものを上げるとき「これ好き」と聞く。あげるよとの意味もある。嫌味なオババを演じたか。

 

二回とも四時頃だった。お腹がすいているのか。男の子というはバナナが好きなのか。

 

ラウンジから出ると女の子がまだ泣いてる。母親らしき人はいない。老婦人が話しかけてた。

「お母さんはどこにいるの」

女の子は大粒の涙を流すばかり。老婦人は品の良い優しそうな人である。踊り場から上を見ると老婦人は困ったように傍らに佇んでいる。泣いている子をそのままにしては立ち去りがたいのだろう。母親が手を焼いて置き去りにしてしまったのだろうか。母親はどこかにいるのだろう。まさか子を置いて帰宅してはいないだろう。母親は泣いているのを知っていると老婦人に言ってあげるべきなのではないかと躊躇したが無言のまま通り過ぎて階段を下りチェックアウトした。