老舗菓子店

「創業 天保○年」と書かれた大きな木の看板を出入口の上に掲げた和菓子店へ行く。先代のおかみさんはいつも着物でその上に上っ張りをきていた。さすが創業「天保」と言ったたたずまいのおばあちゃんだった。この店の和菓子は上品で体裁が良い。たまにお土産用に買うことがある。一昨日、月曜日にお客様に出すのに水ようかんと帰りに持って行ってもらう練り切りと自分用に鹿の子を買った。鹿の子が上手かった。流石老舗の手作り味わいが違う。でまた買いに来た。店には人がいない。すぐに裏から老女現れる。髪は茫々で染めた髪先が色褪せて黄色みを帯びている。根元から大部分は白い。まったくの普段着で食べ物を扱うにはもう少し身だしなみを整えかつ清潔感がほしい。これでは寝床から抜け出して来たような風情だ。冬だったらうたた寝していた炬燵から出てきたような。この店のおかみさんだ。月曜日は身綺麗だった。月曜日は娘さんか息子の嫁さんらしきおかみさんより年若い人もいた。

 

食欲は失せた。しかし個人商店、顔を見たとたん買わずに帰り難い。ケースの中を見ると鹿の子は二つしかない。まだ午前十時過ぎだ。そんなに早く売れてしまうとも思われない。さては昨日の売れ残りか。まさか月曜日に並んでいたものだろうか。だらしないおかみさんの格好をみていると嫌な想像が広がる。仕方ないので鹿の子2個を注文するとおかみさんは素手で鹿の子をつかんだ。トングはないのか。鹿の子をつかんで後ろを向いたのは電光石火だった。この素早さは手で掴むのを見られないためかと疑う。後ろの台で包み始めた。

 

他の用事は済ませていたので、すぐ家へ帰ったが包装を広げる気にはならない。夕方母に出そうと包みを開けてみると鹿の子はプラスチックのケースに入っていた。底に敷いた白い紙だけではなかった。少し安心はしたが当分あそこへ行かない。残りの一個はまだ冷蔵庫にある。