ウソ
一時半過ぎ、ちょうど出かけるところ、トランクに荷物を入れてドアを閉めたら向こうからまさ子ちゃんが来た。同じ駐車場を借りている。
「友達から電話があって、お昼食べたばかりだけどお茶のみに行くところ」
ニコニコと話しかけてくる。この人は立ち話が長い。話に付き合っていると遅刻する。返事をしながら車に乗る。
「急いでいたから家にいる格好で出てきちゃった」
紺色のシャツスクエアネックの周りに白く縁取りがある。
「素敵ですよ」
と言う。
「f子ちゃんはいつも素敵な恰好しているね」
いえいえトンでもありません。体型隠しにだぶだぶの服をいつも来ています。
「いやそんな」
と言って運転席のドアに手を掛ける。
「お仕事」
「はい」
嘘です。仕事ではありません。仕事ならば皆勤賞がもらえるほどのジム通いです。
「では行ってきます」
まさ子ちゃんは小学校の方へ、仕事先ならまさ子ちゃんの後に続かなければならないが私は逆方向で大通りのほうへ向かう。バックミラーで反対方向に走り去るまさ子ちゃんの車を確認した。向こうもバックミラーでこっちの車を確認しただろうか。見ていいたら反対方向へ走って行って変だと思うだろうが仕方ない。「はい」と手短に答えるしかなかった。下手に打ち消して
「ちょっと用事があって」
などと答えるとそこから話の花が咲きそうで早々にきりあげるには「はい」と端的に答えて話を終わりにするしかなかったのです。