コロナ禍と『麦と兵隊』

東京大衆歌謡楽団を今年の初めに知ってから毎日聴いている。コロナ禍の自粛ムード中で『麦と兵隊』を聞いていると

 

 〽行けど進めど麦また麦の

 

のところが今までになく胸に迫る。コロナ禍がいつまで続くのだろうという出口の見えない不安な気持ちは「行けどすすめど麦また麦」の中にいるようである。

 

はがき一枚で家族との暮らしから引き離されて遠く中国まで連れてこられた兵は戦野の夜の雨の中を道なき道を行くのだが

 

〽兵の歩みの頼もしさ

 

であり、歌詞の最後は

〽声を殺して黙々と

 影を落として粛々と

 兵は徐州へ前線へ

 

である。

昭和歌謡は大好きだが、軍歌は敬遠しがちであった。『麦と兵隊』は題に「兵隊」とあるので他の歌ほど熱心には聞かずに聞き流していた。軍歌は戦争を美化している。お国のために身を捧げるのを誉としている。プロパガンダだという思い込みがあったのだ。しかしコロナ禍の中で『麦と兵隊』聴いていると「行けど進めど麦また麦の」のところが今までと違って心に届いてくるのだ。全体をよく聴くと「行けど進めど麦また麦の」の中を行く兵たち個々の心情が伝わってくる。戦争の大義とは全く別ものの故郷や家族への思い、負傷した戦友への労りを心の中に「黙々と」、「粛々」と歩む兵の姿には心打たれる。また頼もしくもある。

 

今は『麦と兵隊』が大好きになりネットで探して他の人が歌っているのも聴いている。